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安曇野の地下水を巡って⑥ 2017年10月号ニュースレターより 無農薬のりんごづくりを目指して 

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 畜産業を考える

安曇野の地下水を守っていくために、「地下水の量」と「地下水の質」の2つの側面から取り組んでいく必要があるということをこのページで紹介してきました。水量の面でも水質の面でも、安曇野の地下水は年々問題が顕在化し、安曇野名産のワサビ田は地下水量減少で生産できる場所が少しずつ少なくなり、飲料井戸の水質に硝酸態窒素濃度の上昇がみられるが場所が出始めています。

 

農業者である私たちが、地下水保全のために取り組んでいくことの柱は、まず何を置いても窒素肥料をやめる、もしくは使う量を減らす栽培に切り替えていくこと。「硝酸態窒素」が多量に含まれる化学肥料や畜産堆肥などの多施肥栽培が、収量維持していくためのこれまでの常識ですが、地下水を汚す原因としてまだまだ認知されていない、されていても危機感が薄いというのが、現状ではないでしょうか。

 

 

 

今日は畜産という産業に焦点を当ててみたいと思います。現実に毎日、硝酸態窒素の多量に含まれた糞尿を生み出し続けるのが、畜産業の宿命であるからです。私は高校もろくに行かず16歳から30歳まで、北海道から広島まで全国あちこちの牧場で働いていました。アメリカ西部開拓時代を書いたインガルス・ワイルダーの物語が少年~青年時代のバイブルでしたし、「有機農業」といえば質の良い(と思っていた)畜産堆肥を使ってやるのが主流の時代でしたから、その仕事に誇りもありました。 自分が選択し、やりがいのある仕事を得て、たくさんの現場を経験させてもらい、牛の世話についてはほぼ一通り。毎日の飼養管理から乳搾り、エサの配合、牛のお産や、人工授精・受精卵移植、牧草の刈り取り・サイレージつくり、蹄を削る削蹄(さくてい)等々、新しいことにチャレンジしていく現場の仕事が、楽しくて楽しくて理屈抜きに朝から夜中まで無我夢中で働きました。が、29才の時に、自分自身の結婚を機に「これが自分の一生の仕事でいいのか。自分たち家族のベースになっていいのだろうか」と、自問自答した時、自分たちの目の前にあったりんごの樹にスーッと魅入られるように引き寄せられ、「果物を作る農場をやってみよう」と、なりました。

 

 地下水・周辺環境と畜産業の関係

 

15年をかけて、何か所かの牧場で働かせてもらいました。どこも安価な飼料として、トウモロコシ・大豆等の穀物類、そして牧草までもが海外輸入となっていました。広大な牧草地を持ち、糞尿を牧草地還元して自給飼料を生産し、土壌に無理の出ない循環農業をするには、北海道ほど広大な牧草地を持つところでもギリギリのところでした。内地(北海道の人は青森以南をこう呼ぶのです)の畜産農家では糞尿を農地に過剰散布し地下水汚染につながるケースがとても多いのが現実で牛1頭飼う為に1ha・100m×100mの牧草地が必要といわれています。

 

私とテルミさんが働いていた北海道の道東地方は夏でも気温が上がらず、経済栽培できる農産物が限られているという気候条件で、牧草地を確保して乳牛を飼うという選択は現実的だと思うのですが、それでも頭数過剰になると、地下水汚染の問題はついて回ります。が、近年は、家畜糞尿をバイオガス燃料の原料とするプラントの研究が進んできて、地下水汚染原因となるケースが減っていくことが期待されています。これは発酵槽でメタンガス発生・回収を行いエネルギー利用する仕組み。北海道では農家単位で実用されているプラントが多数報告されています。

 

穀物消費と畜産業の関係

 

畜産業と地球環境の関係を考えたとき、もう一つの視点があります。それは穀物を人間が食べるか家畜が食べるかという問題です。皆さんもこの数字はどこかで聞いたことがあるかもしれませんが、もう一度紹介します。

家畜に穀物を食べさせて生産する食肉1キロのための、穀物必要量。(主にトウモロコシ。ほかに大豆・麦・米など)

*牛肉—11キロ *豚肉—7キロ *鶏肉—3キロ   

ちなみに食肉以外では*鶏卵—3キロ *牛乳—4キロ

地球規模で見たとき、畜産物を食べる人が増えれば増えるだけ、穀物が家畜飼料とされ、人間の口に入る穀物は減っていくという図式があります同じ地球上に住む70億人の、今でも7~8人に1人が飢餓に直面しているのが現実です。日本では目の前にシビアな飢餓はほぼないので実感しにくいですが、地球全体で見れば、35人のクラスに5人の友達が食べるものがなくて困っている状況です。

 

 水資源と畜産業の関係

 

そして、穀物生産にも家畜の飲用にも膨大な水が必要だということを忘れてはいけません。人間が地球上で飲用や農業用・工業用に使える水のうち、約7割が農地への灌漑に使われています。現在の農業生産現場には膨大な水が必要となっています。炭素循環サイクルが回っている優良農地ではこの問題がかなり解決・緩和されてくる可能性が高いですが、それでも地球人口の増加で、人間の飲める水・家畜の飲める水、農業用水・工業用水を確保することが困難な状況になってくるといわれています。一番使用比率の高い農地灌漑は、家畜へ回す穀物が減っていけば、それだけ他へ振り向けることができるはずです。

 

1キロの牛肉を生み出すために20トンの水が必要という試算があります。1キロの穀物生産に2000リットルの水が使われ、その穀物10キロ以上を食べさせてようやく1キロの牛肉ができるという計算からです。また肉牛1頭で1日80リットル程度、乳牛で1日100~200リットル前後の水を牛自身が飲んでいますから、さらに数字は跳ね上がります。

 

 地球温暖化と畜産業の関係

地球温暖化の主原因とされるCO₂(二酸化炭素)のおよそ21倍も温室効果が高いといわれるのがメタンガスですが、全地球上での人為的メタンガス排出の37%が家畜として飼われている反芻動物(牛など)由来であると、FAO(国連食糧農業機関)が発表しています。牛のゲップは反芻動物の消化過程で排出されるメタンガスです。また糞尿の分解・堆肥化過程でもメタンガスが放出され続けています。

皆さんご周知の通りの気候変動問題。 台風の増加、集中豪雨の頻発、旱魃や海面上昇、北極・南極の氷河消滅など、温室効果ガスの影響で、地球環境が大きく揺れ動いています。変化していくのが世の常ではありますが、人間の叡智が何を選択し、どんな社会を創造していくかは、私たち一人一人の意志次第ではないでしょうか。

 

安曇野の地下水を護ろうと、無肥料栽培に取り組み始めてから、畜産業には思うことがいろいろあり、半年ほど前から私自身は基本的に豚肉・牛肉を食べない食生活をすることにしました。ゆるい基準ではありますが。 家族一人ひとりはそれぞれに考えもありますから、画一にする必要はないのですが、そんな話題を時折子ども達ともしています。青年時代に牧場で牛の世話をしていた頃、理屈抜きに感じる牛たちの「感情」と「命」の存在がありました。それは人間の業(ごう)を思い知る体験だったようにも感じています。

おぐらやま農場では、鶏を50羽ほど飼っています。家の裏のパイプハウスの中で平飼いにして、自給用とご近所へ少しばかり販売する分の卵を産んでもらっています。また最後は自分たちで捌いて鶏肉自給とします。エサはお付き合いのある近くのコメ農家や精米所から出てくるくず米・米ぬか、知り合いの蕎麦屋さんからもらう出汁ガラの鰹節・昆布とそば殻、農場からの屑野菜・虫食いリンゴなど、台所の残渣、家の周りの草取りで引いた雑草も、みんなニワトリたちに食べてもらって、人間の食べにくいものや利用しきれないでいるものを、卵と鶏肉にしてもらっています。鶏糞はたくさんのもみ殻に混ぜて炭素分の多い資材としていますが、これからどんな風になっていくでしょうか。

 

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