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農薬散布は、たとえて言うなら不良学生がかくれてタバコを吸うようなもの

「おぐらやま農場のくだものは皮ごと食べてみてくださいね」と皆さんにオススメしている2つ目の理由は、皮にこそ身体にいいものがたくさん詰まっているからです。

「身体の老化」とは細胞の酸化が進むこと。言い方を変えるとサビつくことです。体内で活性酸素と不飽和脂肪酸が結びつくことで、細胞の酸化が起こります。それを止めて身体を若々しく保つ為に働いてくれるのが、抗酸化物質です。

「皮ごと行きましょう」 その2

その中でもポリフェノールと総称される抗酸化物質が果物・野菜たちにはたくさん含まれていて、身体の中のサビつきが起こらないよう、毎日活躍してくれています。ポリフェノールの抗酸化作用のおかげで、私たちは血管を丈夫に保ったり、肌のツヤを守ったり、細菌やがん細胞への抵抗力を蓄えたりと、毎日いのち輝くために身体自身が様々な働きをしてくれているのです。そのポリフェノールが、果物・野菜たちのどこにあるかを調べてみると、圧倒的に皮に含まれている割合が多いということが分かっています。なぜでしょう。

それは果物・野菜達自身も、自分の細胞を酸化から守るために、身体の一番外側で紫外線や酸素に触れても細胞が傷つかないように、抗酸化物質を皮の部分に蓄積していくからです。果物であれば果肉に糖分を蓄積し、皮にポリフェノール類を蓄積していきます。

肥料栽培のりんごの切り口が茶色く酸化するのを皆さん知っていると思いますが、これもポリフェノールたっぷりのりんごの皮に守られているから、切り口を作らないうちは茶色くならずにいられる訳ですね。

更にこれが無肥料栽培になるとりんご果肉にある硝酸態チッソ(酸化しやすい成分)がほぼ含まれないので、切り口を作ってもなかなか茶色くならずにいます。こうなって来たりんごを食べる時は本当に身体が喜んでいるのがわかります。

果物たちがせっかく作り出してくれた天の恵み、元気の大本ポリフェノール達が、「皮を剥いて食べる習慣」によって大部分が捨てられていくなんて、なんともったいないことでしょうか。

果物を皆さんにお届けして、健康な暮らしに役立ててもらうことが私たちの仕事ですから、皮は剥いて捨てて下さいなんてとても言えないのです。反対に皮だけはどうしても食べて下さいと言わせてもらいたい存在であります。

だけど、社会常識がそうなってないのにはやはり理由があるからで、その常識を覆すには、まず皮ごと食べても美味しくなければいけないし(無肥料栽培で目途がついてきました)、何より皆さんが一番心配している、農薬の問題がクリアされないとそうはならないでしょう。

皮ごといきましょう その3

おぐらやま農場ではくだものを食べる時に、皮ごといきましょう、美味しく食べられますよと、皆さんにおススメしています。同じテーマで投稿してきた3回目は「農薬散布」の話です。今日の話を読んでみて、おぐらやまの果物は皮ごと食べてみようかなと思っていただける人が一人でもいてくれたら嬉しいです。

皮を食べたがらない理由に農薬の事を言われる方は多いです。りんごなどの果物は農薬を使わなければ作物がまともに収穫できないというのが生産現場の常識。大きな原因として肥料を使うことが当然になっていること、樹を弱らせる剪定をしていること、品種改良で耐病虫害性が2の次になってきた事などが挙げられます。

青森の木村秋則さんがりんごの無農薬栽培を続けているということが「奇跡のりんご」と言われ、テレビ番組や書籍・映画になるだけのインパクトがあるのですから、それがいかに「奇跡」なのかは想像いただけると思います。私は木村さん本人の話を直接聞いたことがないし、圃場見学に行ったこともないので木村さんについてコメントする資格がありませんが、私たちの果樹園ではまだまだ無農薬栽培では生活が成り立ちません。

木村さんのように何年もりんごの収穫がなくなることを覚悟でやるわけには行かないので、私たちには木村式ではない別ルートの登り方が必要です。ちがう登り方で山頂まで行くというのが私の覚悟で、中途半端な覚悟だなと笑われるかもしれませんが、今皆さんに販売している果物たちが私たち家族と手伝いに来てくれているスタッフさんの生活を支えているし、収穫される果物たちにも素晴らしい価値があると信じていますので、これを投げ捨てるわけにはいきません。

その前提の上で、試行錯誤しながら農薬の種類や頻度、濃度、薬液量等について毎回これでいいかどうかを少しずつ検証しながら17年やってきました。無肥料に切り替えての10年と、切上げ剪定のこの2年間は、10年前以前と革命的な違いがあり、今年の使用量実績で行くと当地標準散布量に対してりんごで17%、桃18%、梨15%と、1割台まで減らしてきました。有機JASで認められている石灰硫黄合剤、ボルドー液(硫酸銅+石灰)など有機農業で使用の認められているもの(主に鉱物系・生物農薬など)を化学農薬の代替で多く使用するので、これを除外するカウントでは当地基準比りんご14.4%、桃で14.3%、梨10%となります。

ここまでが防除暦(殺菌剤・殺虫剤)対象の数字で、細かいことを言えば除草剤や落果防止剤、石油系展着剤等、おぐらやまでは全く使わないものまで総合的にカウントすると化学合成農薬の使用量1割以下の数字になってくると思います。

また「農薬」と一口に纏めてしまいましたが、残留しやすいものとそうでないもの色々あります。作用機序の特徴で農地周辺の生物や人体に影響大のもの、例えば近年問題になっている「ネオニコチノイド系殺虫剤」や「グリホサート系除草剤(ラウンドアップ等)」は、内容的にどうして農水省がこれを容認しているのか首をかしげるようなものがありますが、おぐらやま農場では選択から外しています。

近年は太陽光や雨・微生物で分解消失の早いものが研究されるようになり、DDTなど蓄積性の高い農薬はずっと昔に使用も製造も禁止になっています。むやみに「農薬は悪だ」「農毒をまくな」と決めつける人がいたら、私は議論を避けて逃げてきます。 農業者の私にとって、農薬に感謝する思いこそあれ「悪だ、毒だ」とこき下ろす思いはありません。

そこに立ってこそ可能になることがあると思うし、確かな栽培方法と土壌環境を整え、品種選択と消費者のニーズを少しずつ変えていくことで、危険といわれる農薬はそのうち必要なくなっていきます。消費者の求めるものを生産して農業者の生活が成り立つのですが、農薬の必要ないものが重宝される時代に変わっていく事を一番にねがいます。

写真はシナノスイートの収穫風景ですが、この長雨の中、落葉する病気の発生はいくらかありますが、今年も美味しいりんごになってくれました。桃・梨については、落葉などの病気は困らないレベルに減りました。まだシンクイ虫発生が時々みられるので選果には神経を使っています。何かの理由で樹が弱ると虫食いも増えることや、借りたばかりの果樹園ではこれまでの肥料蓄積で明らかに害虫発生が多いことなど、目の前に起こる現象・経験の一つ一つがわれらの先生です。

今回はこれまでの投稿で最長ぐらいの長文になってしまいましたが、最後にわが農業の師、道法さんの言葉を紹介して終わりにしたいと思います。

「農薬散布は、たとえて言うなら不良学生がかくれてタバコを吸うようなものと思って下さい。もちろん体には良くないしやめた方がいい。でも肥料を畑に撒くのは作物に覚せい剤を打ち込むようなものです。雨に溶けたチッソ分は強制的に吸収されて、一時は枝葉を伸ばし元気なように見えるけれど、病気や害虫から身を守っている植物ホルモンのエチレン生成能力を奪い取る。抵抗力をなくした作物はやがて虫や病気の餌食になってしまい、肥料が切れたとたんに弱り始め、日照りが来たらすぐに枯れてしまう。農薬と肥料が作物に及ぼす影響の大きさを見ていくと、タバコと覚せい剤くらい違う事を覚えておいてください」

(農場ニュースレター 2018年10月号より 松村暁生・著)

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