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安曇野の地下水を巡って③  2017年6月号 ニュースレターより 無農薬のりんごづくりを目指して

切上げ剪定講座を安曇野で開催しました。広島から道法正徳さんが来てくれて、座学といくつかの圃場を見て回りながらの実技講習もたくさんできました。その中で「チッソをやるとなぜ伸びるか」と題した資料を配ってもらって、肥料というものについて考えてみました。

 

 チッソ肥料と生長調節の仕組み

植物の生長発育に最も影響の大きい栄養素はチッソである。植物はチッソ肥料を施すと盛んに生長し葉色も濃くなる。

 

チッソ肥料はなぜ作物の生育を旺盛にするのだろうか。施したチッソ肥料は植物体内に取り込まれ、アンモニアとなり、アミノ酸に合成され、やがてタンパク質になる。タンパク質の一部は葉緑体となって光合成を盛んにし、また一部は色々な酵素として生理代謝を活発にする。したがってチッソ肥料は、植物体内に取り込まれ光合成能や呼吸作用などの生理代謝を高め、その結果、生長が促進されると考えられている。しかし、チッソ肥料を施した場合の植物の生長に対する反応は大変早く、チッソ栄養が植物モルモンの生合成に直接的な影響を与えているものと考えられる。

 

イネについての実験で、チッソ栄養と植物ホルモンとの関係を調べてみると、生長を促進するジベレリンは植物体内のチッソと密接な関係があり、チッソ含量が高まればそれに伴ってジベレリン含量も増大する。いっぽう生長を抑制するアブシジン含量は植物体内チッソ含量が高まれば、反対に減少する。さらに、生長を抑制するエチレンもアブシジン酸と同様に、植物体内チッソ含量が高まればエチレン生成量は抑制されることが分かった。

 

つまり、チッソ栄養は成長の促進及び抑制に直接関係する植物ホルモンのレベルを調節し、植物体のチッソレベルを高めると、生長を促進するジベレリンのレベルを高めるとともに、生長を抑制するアブシジン酸とエチレンのレベルを低下させる。

 

したがって、作物がチッソ肥料を与えると生長が盛んになるのは、植物体内のチッソが生長を促進させる植物ホルモンであるジベレリンを増大し、生長を抑制する植物ホルモンであるアブシジン酸とエチレンを減少させるからである。またチッソ栄養が不足すると生長が止まるのは、生長を抑制するアブシジン酸とエチレンが増大し、生長を促進するジベレリンが減少するからである。

 

なお、サイトカイニンはチッソ栄養によってその含量が増大する。

植物ホルモンを生かす―生長調節剤の使い方より抜粋 (農文協刊 太田保夫氏著)

 

上記文章は、何故農業においてチッソ肥料が一般的に使われるのか、基本的理由を植物生理の観点から説明しています。植物体内チッソ含量が、生長促進か抑制かのコントロール基準となっている訳です。

 

そしてこの文章で見落としてはいけないのが、「肥料が植物を生長させているのでなく、実際には植物ホルモンを介して植物の生長が司られている」という部分です。これまでの農学では「チッソ肥料をどう使うか、リン酸、カリウム、ミネラル類などの肥料成分をどう使うか」と畑に何を投入していくかがテーマとなってきた訳ですが、実は植物の生長を司っている「植物ホルモン」を主役にして農業技術を組み立てていくと、これまでと全然違う答えが出てきます。

 

チッソ分の植物体内含量があがると、ジベレリンが増大し生長促進するのは前述の通り。しかし果樹園ではジベレリンの他の働きである着果阻害、着色遅れ、熟期遅れなどの作用も同時に起こります。そしてエチレンとアブシジン酸が抑制されるのですが、果樹農家にとっては一大事とも言える「エチレンの働き・・病害虫を防ぐ・熟期を促進する」、「アブシジン酸の働き・・発芽調整・気孔調節・糖度を高める」という部分が抑制されてくるのですから、美味しい農産物がこれでは育ってくれません。「チッソ肥料と農薬はセット」と言われるのもこの辺りが主原因。さらに植物体内に取りのこされた硝酸態チッソめがけて虫たちが寄りつくのです。

 

肥料の種類と散布タイミング・散布方法で植物ホルモンをコントロールするのは実際には至難の業です。これまでは生長段階に合わせて、枝の伸びる時期、花芽のつく時期、身の太る時期、着色と糖度を上げる時期と、細分化し都合の良いように植物にその時に必要な養分を吸い上げてもらおうとしてきたのですが、農業者が沢山の収量を求める場合の方法が窒素肥料に頼り、その結果として病虫害抵抗性をもつエチレン含量を減らして病害虫の餌食になり、もう一つの結果として糖度を上げる為のアブシジン酸を減らして味気のない果物になってしまう残念な結果に終わってしまう現場をたくさん見てきたのです。

 

では植物ホルモンを肥料ではなく何でコントロールするか。それが今勉強している切上げ剪定技術です。

切り上げ剪定技術とは?

  • *「冬場の整枝剪定での切上げ樹形づくり」・・・立ち上がる元気な枝(徒長枝)を一番大切な枝として、春の新芽の数を大量に確保し、発根ホルモンのオーキシン製造工場を準備。オーキシンは新芽で作られる。発芽に伴って多量の発根により、根っこで作られるジベレリン・サイトカイニン・エチレン・アブシジン酸が多量に製造される。これにより各種ホルモンが総合的に活性化、循環する。

    *「春の蕾から開花までの時期に花を触らない着花管理」・・・花をつける、細胞分裂促進、傷口の癒合などの働きを司るサイトカイニンの無駄使いをしないために、膨らみ始めた蕾、咲かけた花を摘んでしまう作業をしない。もしこの時期に蕾花を摘むとさらに花を咲かせようとサイトカイニンの無駄な消費につながる。冬の剪定時に花芽の数を調整しておくことがポイント。

     

    *「夏場の新梢の整理、芽かきによる枝作り」・・・新芽が生長してきた6月頃に伸び行く枝を決める。先端を1本にすることで翌年に勢いのいい元気な枝がつくれる。また切上げた上向き枝の基部から出る枝葉をかき取ることでジベレリン活性にブレーキがかかる。

 

その他にも「苗木養成時の縛上げ整枝法」、「土づくりをしないで石の多い畑を目指す」、「枝を切る時は癒合しやすい切り方で」「水やりのタイミング」・・等々、植物ホルモン活性を上げていくための方策は次々と出てきます。肥料で植物ホルモンをコントロールする発想を一旦棚上げし、日々のお世話が植物ホルモンを総合的に活性化する為の仕事と心得ることが肝要です。

 

これで農地への肥料が必要なくなるのだとしたら、安曇野の地下水を保全していくための光明が見えてきます。肥料由来のチッソ成分が硝酸態チッソ成分として地下水へ入り込み、水質低下が懸念されているのが実情の安曇野の地下水。私達農業者が掲げなければならないビジョンは、美味しくて品質の良い農産物がたくさん収穫できる、肥料を使わないで植物ホルモンを生かす農業の実現が、同時に安曇野の地下水を護っていくという未来設計図ではないでしょうか。これからの安曇野のまちづくりコンセプトとして掲げるべきものではないかと思うのです。(アキオ)

 

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