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火を焚きなさい 我らの魂の奥底に眠る、生命の根源

厳しい寒波の到来は、そのまま我が家の中までダイレクトに伝わってきます。なんとかそれを跳ね返すだけの道具が薪ストーブと湯たんぽというわけですが、剪定で出てくる枝を焚き木に刻み、秋の終わり11月から早春4月頃まで、ほぼ毎日火を起こして部屋を暖めるこの営みが、なんとも言えない充実感に充ちていることを告白致します。火を焚くことで「ヒト」は「人間」となったという、我らの魂の奥底に眠る、生命の根源を思うのです。燃え立ちゆらぐ炎の美しさについつい眺める時間が長くなり、忙しい朝の時間が余計に忙しくなってしまうのは改善したいですが。

 

火を語るときにまず紹介しなければならないのは山尾三省さんの詩、「火を焚きなさい」ですね。私の父は野草社という出版社をやっており、三省さんの詩集などをたくさん発行しているのですが、「びろう葉帽子の下で」という詩集にあったこの詩に出会ったとき、言葉の迫力に打ち震えたことを記憶しています。ちょっとボリュームがありますが、ぜひ皆さんにも味わってもらいたく、真冬のこの時期に少しでも暖かい気分になればと、炎の美しいストーブの写真のとともにどうぞ。 (アキオ)

 

―火を焚きなさい―

山に夕闇がせまる
子供達よ
ほら もう夜が背中まできている
火を焚きなさい
お前達の心残りの遊びをやめて
大昔の心にかえり
火を焚きなさい
風呂場には 充分な薪が用意してある
よく乾いたもの 少しは湿り気のあるもの
太いもの 細いもの
よく選んで 上手に火を焚きなさい

少しくらい煙たくたって仕方ない
がまんして しっかり火を燃やしなさい
やがて調子が出てくると
ほら お前達の今の心のようなオレンジ色の炎が
いっしんに燃え立つだろう
そうしたら じっとその火を見詰めなさい
いつのまにか —
背後から 夜がお前をすっぽりつつんでいる
夜がすっぽりとお前をつつんだ時こそ
不思議の時
火が 永遠の物語を始める時なのだ

それは
眠る前に母さんが読んでくれた本の中の物語じゃなく
父さんの自慢話のようじゃなく
テレビで見れるものでもない
お前達自身が お前達自身の裸の眼と耳と心で聴く
お前達自身の 不思議の物語なのだよ
注意深く ていねいに
火を焚きなさい
火がいっしんに燃え立つように
けれどもあまりぼうぼう燃えないように
静かな気持で 火を焚きなさい

人間は
火を焚く動物だった
だから 火を焚くことができれば それでもう人間なんだ
火を焚きなさい
人間の原初の火を焚きなさい
やがてお前達が大きくなって 虚栄の市へと出かけて行き
必要なものと 必要でないものの見分けがつかなくなり
自分の価値を見失ってしまった時
きっとお前達は 思い出すだろう
すっぽりと夜につつまれて
オレンジ色の神秘の炎を見詰めた日々のことを

山に夕闇がせまる
子供達よ
もう夜が背中まできている
この日はもう充分に遊んだ
遊びをやめて お前達の火にとりかかりなさい
小屋には薪が充分に用意してある
火を焚きなさい
よく乾いたもの 少し湿り気のあるもの
太いもの 細いもの
よく選んで 上手に組み立て
火を焚きなさい
火がいっしんに燃え立つようになったら
そのオレンジ色の炎の奥の
金色の神殿から聴こえてくる
お前達自身の 昔と今と未来の不思議の物語に 耳を傾けなさい

「びろう葉帽子の下で/山尾三省詩集」(1993年、野草社刊)より

無肥料栽培で育てた野菜や果樹が10年経つと、、、、腐らない野菜とは?

 

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