スピードスプレーヤーの魂とは?プロジェクトXにも負けない農業整備士〇〇さん
このあたりのほとんどの果樹農家がお世話になっている農機がスピードスプレーヤー。通称SS(エスエス)と言われる農薬散布機です。
1000リットルタンクに入れた水に農薬やミネラル資材、植物酵素などを溶かし、タンクごと自走しながらスプレーと送風まで同時にやってしまうすごい機械です。
おぐらやま農場の農薬使用量は当地標準の3割以下で取り組んでいますが、果樹園面積3ha以上になっている現在、SSのない作業工程はちょっと考えられません。
近所に住んでいる花井ケイタさん。今は大工が本職ですがその昔は腕利きの農業機械整備士だった経歴の友人で、おぐらやま農場の農機コンサル(?)を自認してくれている。契約書も何もないけど。
「梓川の解体屋の前にSSが置いてあったぞ。もしまだ使えそうなら整備するけど、まっちゃん(松村の子ども時代からの呼名)の目で判断してみて」と彼から電話がきた。
昨年秋に、私の所で15年、私の所の前に25年使われていた40年選手のSS(ショーシン社製)がついにクラッチ破損し、地元の農機屋さんから修理不能宣告(型式が古すぎて部品がない)を受けたことを知っている彼が、SS散布のシーズン前に用意しておかなければとあちこち情報を集めてくれていたのです。
私、すぐに解体屋さんへ行き交渉してみると中国の方が経営者で、エンジンとポンプをベトナムへ輸出するつもりだったので、7万5千円なら譲れるとのこと。近くの農家からここまで自走で来たからまだ十分使えるはずだ、昔の機械ほどシンプルだから結局壊れにくいですよねと。
キョーリツ社製でこれもおそらく40年選手のSSが動くかどうかをチェックするとエンジンの調子は良いが、ポンプ内水抜き不備でポンプ本体が凍結破損していることが判明。寒冷地ではよくあるパターンです。代わりに良品バッテリーを付けてもらって松村が家まで持ち帰ってきた。
もちろんポンプが使えないとスプレー作業はできないが、実は花井さん自宅の向い敷地にこれと同じ型の、放置されている走行不能のSSがもう一台あることを知っていたのでその持ち主に訳を話して花井さんがクレーンで引き揚げてきた。
「こっちのSSのポンプは生きていると思うよ」 彼はそのあたりの勘所で絶対間違えない。おそらく10年近く放置されていたもので、見た目はボロボロだったけど、彼が「いける」と言ったものがダメだった試しはこれまで一度もない。
2日前に彼がポンプの組み換えをしてくれて試験運転。見事にSSは生き返った。軽快なエンジン音と共にノズルから噴き出す水を確認した花井君が呟く。「いやあ、これでお前もまだ役に立てるぞ。バラバラになってスクラップにならずに済んだなあ。まっちゃんの所でもう一花咲かせてやってくれよ」
彼は目の前の農機の魂と会話をしているようだった。(アキオ)
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